柔軟剤等に使用されてる徐放剤マイクロカプセル類もマイクロプラスチックの仲間になります

香料が発見されたということはそれを運んだマイクロカプセルも海中に有ると推測されます。

 

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深海堆積物コアからの人工香料の検出

 

投稿日時 : 2021/06/22  上野 大介  カテゴリ:テクノロジー

松元美里, 野牧秀隆, 川口慎介, 古賀夕貴, 樋口汰樹, 松本英顕, 西牟田昂, 龍田典子, 上野大介

(2020)

におい嗅ぎGCGC-O)を用いた相模湾および小笠原海溝の深海堆積物コアを対象とした人為起源におい物質の検索.

環境化学, 30, 94-99,

https://doi.org/10.5985/jec.30.94

 

要旨

近年,洗剤や化粧品などを含む香り付きパーソナルケア製品(PPCPs)の利用が増加し,合成香料を含む“におい物質”の環境への流出が増加している.本研究では,相模湾および小笠原沖の1400mおよび9200mから深海堆積物コア試料を採取し,におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography-OlfactometryGC-O)を用いて,ヒト嗅覚による“人為起源におい物質”の検出に取り組んだ.本研究は深海堆積物コア試料のにおい物質をヒト嗅覚によって検出した初めての報告である.分析の結果,6種類の人為起源と推測されるにおい活性が感知された.光の届かない海域に生息する深海生物は嗅覚に多くを依存している.ヒトの嗅覚を用いたGC-O分析の技術を活用することで,“におい物質”が生物へおよぼす影響を評価する「環境におい影響評価」への取り組みが可能になると期待される.



合成香料の環境中への流出とヒトへの暴露が問題となっている.水環境に流入した化学物質は最終的なたまり場として深海に到達することが知られ,1200mの深海堆積物から環境残留性の比較的低い合成香料の検出が報告されている.これらは合成香料を含む多くのPPCPsが深海生態系に到達しており,水生生物にも悪影響を及ぼしている可能性を示唆している.そのような中,本研究では深海環境における“人為起源におい(匂い)物質”の存在の確認のため,相模湾内と伊豆小笠原海溝の深海堆積物に着目した.


深海堆積物コア試料(コア試料)は,海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」のKM19-07航海にて採取された.コア試料は,相模湾内,および伊豆小笠原海溝にて採取された.それぞれの地点で採取されたコア試料各1本を船内において厚さ5cm間隔でスライスし,ポリエチレン袋に分取した.



GC-O分析は,におい物質を分離同定する“分析機器技術”と,においを感知する“ヒトの嗅覚”を組み合わせた手法である.GC-Oは,におい物質をGCに導入してキャピラリーカラムで分離する“分離部”,およびにおい物質を機械的に検出する“検出器”と“パネル”によって構成される.GC-Oを利用することで,においに含まれる成分の分離,それら構成成分の器機的なピーク検出による定量,および機器分析だけでは判定することができない“においの感知(官能評価)”と“においとピークの一致”,が可能となる.


GC-O/FID分析の結果から,近海試料は遠海試料と比較して約2倍のにおい活性が感知されたが,それらは自然起源と人為起源のにおい物質を含んでいる.そこで,人為起源のにおい物質を選別するため,近海試料の深層(西暦約19501970年)と表層(約20002019年)のにおい活性を比較した.深層からは検出されずに表層から検出されるにおい活性があれば,過去には使用が無かった(または少なかった)物質が,近年の使用量の増加によって深海堆積物まで到達した可能性を示すと考えられる.その一方で,におい物質は一般的に環境残留性が低いと想定され,深層堆積物中で分解されたため感知されないという可能性もある.そこで近海表層試料のみで感知されたにおい活性を,遠海表層試料とも比較することとした.人為起源のにおい物質であれば,陸域から距離依存的に濃度が低下すると予想される.したがって,遠海表層では感知されずに近海表層から感知された場合,人為起源の物質である可能性が高まると予想される.近海の表層と深層,および遠海の表層と深層のにおいクロマトグラムをまとめ,共通で感知されたにおい活性をブランクまたは自然起源として除外した.その結果,近海表層試料のみで感知されたにおい活性は6箇所みられ,それぞれに“におい番号”を付与した.におい番号①は「くさい,硫黄系」,②は「甘い香り,柔軟剤」,③は「ミント,ニンニク」,④は「ピーマン」,⑤は「薬品のようなにおい」,⑥は「薬品,紙粘土」といったものであった.


GC-MSEIスキャン)分析によるマススペクトルライブラリの検索を試みた.結果として,物質濃度が低いため,全てのにおい番号の保持時間において明確なピークは検出されていなかった.AroChemBase検索で挙げられた候補物質の主要な5イオンを対象としてイオンクロマトグラムを抽出し,イオン強度比の一致する物質を検索したところ,におい番号⑤のnaphthaleneRIとイオン強度比が一致し,さらに標準品で保持時間を確認できたため同定とした.他の物質については濃度が低くピークが見られないため,標準品による確認ができなかった.同様の試料をGC-MSCIスキャン)分析に供試し,におい番号①~⑥ の[M+1]+イオンの検出を試みたが,濃度が低く想定されるイオンは検出されなかった.
 検索の結果,⑤naphthalene91-20-3)が同定され,①1-penten-3-one1629-58-9),②Butyl acetate123-86-4),③3-Methyl-2-(2-methyl-2-butenyl)-furan15186-51-3),④2-isobutyl-3-methoxypyrazine24683-00-9),⑥delta-cadinene483-76-1)が候補物質としてあげられた.


 これまでも,1200mおよび400mの深海堆積物から合成香料が検出されているが,ヒトの嗅覚を用いたGC-O分析の技術によって極微量のにおい物質を検出した初めての例である.におい物質は一般に環境半減期が短いと予想されるが,それら物質が深海へ輸送される経路として,懸濁粒子(suspended particulate matter: SPM)への吸着によって深海底まで沈降したことが示唆されている.近年では,マイクロプラスチックに多様な化学物質が吸着していること,深海堆積物からもマイクロプラスチックが検出されていることが報告されており,これらへの吸着による沈降も予想される.くわえて近年,洗剤や柔軟剤,化粧品などのPPCP製品には,マイクロカプセル化香料が広く使用されている.マイクロカプセル化されることによって環境残留性が高まり,SPMやマイクロプラスチックに吸着した化学物質と同様の環境挙動で深海まで沈降することも予想される.


 水生生物とにおい物質の関係をみると,その多くが餌の探索,母川回帰,危険の回避,コミュニケーションなど,様々な行動決定に嗅覚を利用していることが知られている.合成香料を含む人為的なにおい物質が深海に到達していた場合,深海生物の嗅覚応答に悪影響をおよぼすことが懸念される.GC-Oという嗅覚を用いた分析技術を環境化学的に活用することで,“におい物質”が生物へおよぼす影響を評価する「環境におい影響評価」への取り組みが可能になると期待される.


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タグ 佐賀大学  上野大介  臭気  環境    分析  0 コメント メニュー マイポータル 研究ブログ

 

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