柔軟剤等に使用されてる徐放剤マイクロカプセル類もマイクロプラスチックの仲間になります
アサリ減産の理由が書いてあるHP←元はこの文字ポチ
~“天人合一”の思想で自然と人間の共存共栄を追求~
自然環境や生態系に悪影響を及ぼすマイクロプラスチックが社会問題となり、特に海や河川に生息する水生生物への悪影響が懸念されている。そこで、実際に水生生物がどのような影響を受けているのかを詳細に調査するため、研究室に「マイクロコズム」と呼ばれる模擬生態系を設置し、データの収集と解析を進めているのが環境・社会理工学院 融合理工学系のテイ・シャク助教だ。
-まず、テイ先生の研究テーマを聞かせて下さい。
マイクロプラスチックなどの環境汚染物質が自然環境や生態系、ヒトに及ぼす影響について研究しています。
マイクロプラスチックとは、粒子の直径が5ミリメートル以下の微細なプラスチックのことです。廃棄されたプラスチック製品が、風化などにより徐々に細かくなっていったもので、1980年代に初めて提唱され、2008年にアメリカ海洋大気庁(NOAA)によって定義されました。実際には、マイクロプラスチックの多くがマイクロ(10-6)メートルからナノ(10-9)メートルのサイズで自然環境に存在しているので、多くの場合、私たちは肉眼で見ることができません。
プラスチックについて調査する中、肉眼で確認できる大きさのプラスチックは回収が比較的容易な一方で、すでに細かくなってしまったプラスチックは回収が困難な上、水や風によって広く自然界に拡散していることを知りました。
しかも、マイクロプラスチックは、細かくなる前のプラスチックに比べて比表面積(単位質量や単位体積当たりの表面積)が大きいので、その表面に重金属やダイオキシンなど有害物質を付着しやすいことも知りました。マイクロプラスチックは有害物質のキャリアとして、知らず知らずのうちに、私たちの周りに存在していたのです。実際、人間の血液中からマイクロプラスチックが検出されたという報告もあります。実はマイクロプラスチックそのものよりも、表面に付着した有害物質の方が、より悪影響であると考えられています。
そこで、マイクロプラスチックが生態系にどのような影響を及ぼしているのかを詳しく調査、研究することにしたのです。
風や水を通して広く自然界に拡散され、水生生物に悪影響を及ぼすマイクロプラスチック
マイクロプラスチック(MPs)が水生生態系に与える影響
-具体的な研究内容を聞かせて下さい。
マイクロプラスチックは自然環境に広く存在しているので、生態系全体あるいは食物連鎖が研究対象となります。しかし、実際の生態系は非常に複雑なため、データの収集や解析が困難です。また、実際の生態系の中で環境汚染物質や有害物質を扱う実験を行なうと、実験や研究自体が環境破壊を引き起こしてしまいます。
そこで、私が採用したのが、「マイクロコズム(制御実験生態系)」です。マイクロコズムとは、生態系の中から代表的な動物や植物、微生物などをいくつか選んで作った制御が可能な模擬生態系のことです。
現在は、研究室に複数のマイクロコズムを設置し、マイクロプラスチックが生態系に与える影響を解析するためのデータを収集している段階です。今後は収集したデータを詳しく解析していく計画です。
-どのような方法でデータを収集しているのでしょうか。
たとえば、湖沼や河川に広く生息しているものにクロレラがあります。クロレラは直径3~8マイクロメートルの微細藻類で、食物連鎖の起点としてプランクトンや小魚の餌になります。そこで、まずは、クロレラがマイクロプラスチックからどのような影響を受けているかを調査するため、クロレラを単独で培養して、成長速度やクロレラに含まれるタンパク質や糖質、ビタミンなどの含有量の変化を見ています。
実際、マイクロプラスチックに付着させた有害物質の量が増えると、クロレラの栄養素を作る能力が落ち、タンパク質や糖質の生産量が減少することがわかりました。
また、クロレラだけでなく、クロレラの第一次消費者であるミジンコなどプランクトンへの影響も確認されました。クロレラなどの微細藻類に含まれる栄養の量や質が低下すれば、当然プランクトンはクロレラを食べなくなりますし、さらに、プランクトンを食べるゼブラフィッシュなどの魚(クロレラの第二次消費者)にも悪影響を及ぼします。このように食物連鎖全体に悪影響があるということが、実験や収集したデータから確認されたのです。
加えて、あらゆる生物はマイクロプラスチックと直接接触するため、食物連鎖という間接的な影響だけでなく、直接的な影響も懸念されます。そこで、重金属やダイオキシンなどの有害物質を表面に付着させたマイクロプラスチックを水槽に入れて、ゼブラフィッシュを1ヵ月ほど観察しました。それにより、有害物質が魚や魚の卵に与える影響についてもわかってきました。たとえば、ゼブラフィッシュの成魚は、マイクロプラスチックとそれに付着する有害物質により、抗酸化ストレス状態に陥って、稚魚のふ化率が低下し、ふ化に成功した稚魚の奇形率が上昇するなどの現象を観察しました。
-これまでの主な研究成果を聞かせて下さい。
マイクロプラスチックの表面に付着した有害物質は単に生物の体内を素通りするだけで、マイクロプラスチックと一緒に体外に排出される可能性も考えられるわけですが、残念ながらそうではないことが確認されました。実際に有害物質がアサリの体内に入り、アサリのDNAを破壊していることを確認したのです。このことがこの1年の最も大きな成果です。マイクロプラスチック自体よりも付着した有害物質の方が、悪影響が大きいことが明らかになったのです。
-研究で苦労した点を聞かせて下さい。
もともと私は中国の華北電力大学(北京市)で、機械などの自動制御に関する勉強をしていました。その後2011年に来日し、東京工業大学大学院総合理工学研究科(当時)では廃棄物処理に関する研究をしていました。
私の専門分野は生命科学(バイオサイエンス)ではないため、この研究を始めるには、生命科学に関する知識や実験方法をゼロから勉強しなければなりませんでした。
また、マイクロコズムを構築するにあたっては、微細藻類から細菌、バクテリア、プランクトン、ゼブラフィッシュなどの小魚に至るまで、さまざまな水生生物を自分で飼育する必要があります。これまで植物すら自分で育てた経験がなかったので、これは大きな挑戦でした。しかし、それにより水生生物に興味をもつようになりましたし、水生生物の飼育を通して自然の摂理を理解できるようになってきました。とはいえ、当初はこれほど水生生物に関する幅広い知識が求められるとは思ってもみませんでしたね(笑)
-今後の目標を聞かせて下さい。
マイクロプラスチックの影響の調査、解析を分子レベルから自然環境全体にまで広げていき研究を完成させることです。検知しにくく、かつ、広く存在するマイクロプラスチックの脅威に対し、できるだけ早く対策を打つ必要があります。
この研究テーマは私たちの未来にとって大きな価値をもたらすと私は確信しています。
-そもそもマイクロプラスチックの研究を始められたきっかけと環境問題に関する考えを聞かせて下さい。
私は趣味でダイビングをするので、投棄されたプラスチックを身体に巻きつけた亀などの海の生き物をテレビの報道で目にしたときには、非常にショックを受けました。それがきっかけでマイクロプラスチックの研究を始めました。
中国には儒教、仏教、道教の3教を横断する思想として、「天人合一」があります。これは、天と人は本来合一性をもつものだという考え方です。天とは自然のことだと考えてよいでしょう。
産業革命以来、経済や社会が急速に発展したことで、自然とのバランスが壊れ、人類は環境破壊を引き起こしてしまいました。そのため、現在、私たちは地球温暖化防止に向け本気で取り組み始めています。
とはいえ、人々はすでに快適な生活を手に入れてしまったので、産業革命以前の生活に戻ることは困難です。経済や科学の発展も止めることはできません。人間が自然との共存共栄を実現するには、自然への理解を深めることが不可欠です。しかし、私たちはまだまだ自然への理解が足りていません。私自身、人間以外の生物や自然環境へのさらなる理解に努めていかなければいけないと思っています。
-留学先として東工大を選んだ理由を聞かせて下さい。
私は人一倍好奇心が強く、「外の世界を見てみたい」と思い、留学することを決めました。また、留学先に日本を選んだのは、私が小学5年生の頃に父の仕事の関係で来日した経験があったからです。父は医者で、日本の病院と交流していました。その時に日本が好きになり、留学するなら日本がいいなとずっと思っていました。
機会があって東工大に2011年から在籍し、2016年に博士号を取得しました。その後、中国の清華大学で約2年間ポスドクを経験し、2019年に教員として東工大に戻ってきました。
東工大に入る前、自分は将来の道を迷っていました。しかし、東工大に入ったことで一生の研究テーマが見つかり、研究者として生きていく決心がつきました。東工大にはとても感謝しています。
-最後に、研究者を目指す学生に向けてメッセージをお願いします。
私が伝えたいことは2つです。1つ目は、研究者になるには、学業の成績だけでなく、想像力、観察力、実行力の方が重要だということです。2つ目は、自分が本当にやりたいことをしっかりと理解し、その気持ちに正直に、一度決意したことは貫くべきだということです。人生は何十年も続く長丁場です。特に優秀な人は、優秀であればあるほど、途中でさまざまな誘いに遭遇し、迷いが生じることでしょう。しかし、研究者として大切なのは、忍耐強く最後までやり遂げることだと思っています。
テイ・シャク
環境・社会理工学院 融合理工学系 助教